冥土の土産

キュアップ・ラパパ ?

セフレに彼女ができた話

それはあまりにも突然の出来事だった。

3日間連絡のなかったセフレからやってきたLINE。

「連絡不精で申し訳ない!

突然だけどお伝えしないといけないことがあって、一目惚れして告白した方と交際することになりました!

恋人のためにも身辺整理をしたいなと思います、これまで楽しい時間をありがとね」

頭が真っ白、いや暗転した。

何が起きているのか理解ができなかった。

何を言われているのか理解ができなかった。

 

わたしが彼に会ったのは1ヶ月半前。

きっかけはTinderだった。

Tinderなんてヤリモクが大半だしわたしもそのつもりだった。

でもマッチングして、その日のうちに会う約束を決めて会うまでの期間、相手はとてもわたしに興味を示してくれたし(ヤリモクなので)優しくしてくれた(ヤリモクなので)。

わたしは約束当日、はちゃめちゃに緊張しながら彼の家の最寄り駅で待っていた。

すると電話。

「今日遅くまでいるでしょ?一緒に晩ご飯食べようと思って材料買い出しに来てるからちょっと待っててね」

5分後現れた彼。緊張が安心に変わった気がした。

家に着いてセックスして、一緒にお風呂入って晩ご飯を食べて帰る。

それがわたしたちの、いやわたしのしあわせな週に一、二度のルーティンになっていた。

こんな生活抜け出せなくなるな、と思った。

わたしは筆不精な彼からの返信を一日中待っていた。

だいたい10時、15時、22時。

その時間になると無意識にスマホを気にしたり時間を確認したりしていた。

それはもう、すでに、恋だった。

恋だと認識してからの毎日は楽しくて、一喜一憂もするけれど毎日がすこしだけ輝いていた。気がした。

彼はその間も甘い言葉をかけ続けてくれていたし、わたしも徐々に愛情表現をするようになってしまっていた。

セックスフレンド。略してセフレ。

ある日言われた。

「俺と端娘ちゃんはさ、世間一般的に言ったらセフレだけどそれ以上の信頼関係があると思うんだよね」

素直に嬉しかった。このまま付き合えなくても信頼関係があるならこれでいいんじゃないのかとすら思った。

でも、終わりは唐突にやってきた。

セフレの関係性は刹那的であり、どちらかに恋人ができたら即終了の詰みゲーだったりする。

終わって欲しくないことの終わりはいつも突然だ。

でも人間には終わりがあるからこそ美しい、そう思う。

わたしはもちろんどん底に落ちたし這い上がるパワーはまだ完全ではないけれどなんだかそれも受け入れてしまえるような気がした。

 

今日、彼の家に忘れ物を取りに会いに行った。

絶対しないぞと思っていたけれど結局セックスはした。

わたしたちらしい終わり方だなと思った。

事後、わたしはやっぱり泣いてしまって、笑ってごまかしたりしてみたけれどそれでも涙は止まらなかった。

「わたし、本当にセフレさんのこと好きだったんですよ、知ってたでしょ」

「本気かどうかはわからなかったけど好きでいてくれてるなって自覚はあったよ、気持ちに応えられなくてごめんね」

彼は彼のままでいて欲しいな、と思った。

最後の最後まで、とてもずるくて、都合が良くて、自分勝手で、でも、すごく、すごく優しい人だった。そんな彼が好きだった。

そしてそんな彼の幸せをただひたすらに祈る自分がいた。

何にでも終わりはやってくる。

でもその終わりを何度も乗り越えて人は強く、愛情深くなるんだなと思った。

 

彼がしてくれたこと、それはセックスだけじゃなかった。わたしの心の拠り所になってくれた、理解しようとしてくれた、信頼してくれた、そばに居てくれた。こんな短期間でそれだけのものを貰えたなんて、もうわたしはそれで十分だなと思えた。

前髪を切ってくれたこと、一緒にゲームしたあと昼寝したこと、新しく買った布団のレビューを言い合ったこと、入浴剤を浴槽の外にぶちまけて笑ったこと。

もう二度と会えないと理解した途端、彼の声、言葉、表情が一気に頭の中を駆け巡った。

 

玄関先で彼は言った。

「今までありがとう、またね」

わたしは笑ってこう返した。

「今までありがとう、さようなら」