本当は忘れたいことなんてひとつも無かった
平日の夕方。雑に特に必要も無い自慰をしながら昼寝をする体制でTwitterのフォロー整理なんかをしていたらクリープハイプの「ねがいり」の歌詞をツイートしているアカウントがあって、どんな曲だったっけと思いYouTubeを開いた。
好きだったジュースも髪の毛の色も
笑った時の顔も泣いてる時の顔も
出会った事さえ忘れていました
思わず泣いてしまった。いやそれは嘘だ。正確には心の底から泣きたいと思った。わあわあと声を上げて泣いてしまいたいと思った。
大事なことを忘れてしまう、それは日常に度々訪れることであって、忘れる側が悪いわけでもなく、忘れられる側が悪いわけでもないのだがなぜかそれはとても悲しくて、寂しくて、胸がギュッと痛むような、ズキズキと脇腹が痛むような気持ちになる。
逆に忘れたいことはなかなか忘れることが出来ずに日々を蝕むし、侵食しきってもうズタボロになったよ、さあどうしようか、ってレベルまで到達した頃にようやくどうでも良くなってきたりするので非常に困るのだ。
わたしには今「絶対に忘れたくないけど忘れたほうがきっと少しは幸せに生きていけるんでしょうね、知らんけど」といった具合の案件があって、どうもその感情のやり場がない。見つからない。
人を好きだと思うこと。わたしにとっては簡単で、なんならその日会った人とホテルに行ってしまえばそれはある程度達成出来てしまうようなことで、別に大したことじゃなかった。
人を信用すること。これはまた厄介で、わたしは人に心を開いたり人の助言を聞き入れることが大変難しく感じてしまう。
じゃあそのふたつを許せる相手がいたら?
それはもう、好きだ!なんてものではなくなってしまうんじゃないか、そう思った。そして同時に少しだけ怖くもなった。
人を愛しいと思ってしまった。
この人と生きていきたいと思ってしまった。
初めて人に対して強く強く生きていてほしいと願った。
だけど、どうやらそれはもう届かないみたいだ。
だから忘れようと思う。でもわたしは不器用で都合のいい人間にはなれないから、忘れた振りをして生きていこうと思う。
もうその相手にわたしが直接言葉を伝えることは出来ないのでここに書かせてください。
あなたの笑った顔、怒った顔、わけわからん変顔、話し方、わたしの名前を呼ばないところ、意外とだらしないところ、作ってくれたごはん、朝少し寒い部屋で目覚めて隣にあった寝顔、午前4時を過ぎるとなぜか抱きついて眠る癖、わたしが泣いてたら一切の励ましをせずに正論をぶつけてくるところ、でも最後は笑わせてくれるところ、柔軟剤とシャンプーの匂いも、ごめん。
全部忘れてしまいました。